親切なクムジャさんを改めて観た

ヤングタンのベースのタカノです。

自分が好きな映画を5本挙げるとするなら、間違いなくこの映画を挙げます。
韓国旅行に行ったので、より面白くなるかと思い、改めて観てみました。
それで、何でこの映画が好きなんだろう、と考えた事を、出来るだけネタバレが無いように書きたいと思います。

クムジャさんとは?

この映画は、『復讐者に憐れみを』『オールド・ボーイ』に続く、韓国のパク・チャヌク監督の"復讐三部作"の完結編となります。
3部作にして、初めて女性が主人公です。
この2本も観たんだけど、圧倒的に『親切なクムジャさん』が自分の好みでした。


どれもセンスの良い絵面でユーモアも交えつつ、最終的にシリアスな話になる、という撮り方で一致しています。
主に違うのはストーリーとなります。娘を誘拐された主人公が、いわれなき罪(性格には無実ではないけど)にて刑務所に行く事になり、真犯人に復讐を誓う、という話です。
ただ、ストーリーだけなら、『オールド・ボーイ』が一番面白いと思います。

イ・ヨンエの顔の演技

この『親切なクムジャさん』が凄いのは、イ・ヨンエの演技です。圧倒されます。

この動画の中だけでも、人生に疲れたオバサンの顔、純真無垢な顔、娼婦の顔、殺意に満ちた顔、等色々出てきます。
パク・チャヌクのほかの作品に比べ、とにかくイ・ヨンエの顔を大事にしたショットが多いです。
ですが、何といっても、最後の方でもの凄く複雑な表情が出てきます。
笑っているが、怒っていて悲しい、般若としか例えようも無い表情が出来ます。
「人はこんな表情を浮かべられるのか。。。!」と腰が抜けました。観返して見たらもう一回腰が抜けました。


最後の方で、主人公が違った表情を見せて全てを語る映画として、『ピアニスト』という映画があり、これもとんでもないのですが、それ以上に過剰で複雑な表情を浮かべます。
こんな表情を浮かべる事が、もともとのプロットに入っていたのでしょうか?
この表情を描く事(もしくは結果として描いた事)が、この映画の核ではないか、と個人的には思っています。
この表情を観るだけで、十分に価値があるんじゃないかなー。


そもそも復讐物というと「色々な困難があったけどついに復讐が達成されましたー」というお涙頂戴的な話になるのが一般的です。
それがこの映画では、トラブルはありつつも、わりとすんなり復讐が達成されます。
ということは、この映画は復讐のどのポイントを描きたかったのでしょうか。

クムジャさんのテーマ

三部作にしている以上、それぞれの映画で描いている内容は若干異なります。
『復讐者に憐れみを』では、なぜ復讐という手段に至ったのかという群像劇、『オールド・ボーイ』では復讐が達成されるまでの闘いをエンターテイメントに描いていました。


この『親切なクムジャさん』では、復讐に至るまではただのお膳立てであって、復讐した後の話を書きたかったんではないかと思います。中盤以降、あんまりエンターテイメント性は強くありません。
とある誘拐事件の背景とか、あんまり詳細を書いていないですからね。
ベタですが、復讐をテーマにしつつ、人の心が描きたかったんではないかと。
そうすると、どうしても復讐後にどんな感情を抱くのか、を描かざるを得ません。
という事で、あんな表情が撮られたのではないだろうか。
だから3部作それぞれが「理由」「過程」「心情」という事でしょうか。


この話の主人公は、復讐を達成するために色々な人と関わりを持つのですが、全く誰とも心を分かち合っていません。
バイオレンスだったり、スタイリッシュなシーンもあるのですが、なぜだか寂しさが漂ってます。
そのにじみ出る寂しさが、自分の好みに合うのではないかと思いました。


そういう訳で復讐ってのは良くありません。
「オレが楽しみに取っておいたプリンを食べやがって!復讐してやる!うらみはらさでおくべきか!」とか、もうつまらない事で怒るのは止めようと思いました。寂しいぜ。おわり。